2020/08/10
オンライン授業と最も内気な国王陛下
学校も緊急事態?オンライン授業と対面授業
ようやく梅雨が明けたと思ったら、連日猛暑日の厳しい暑さが続く盆地の街、奈良県大和高田市ですが、奈良甘樫高等学院・広域通信制高校慶風高等学校奈良サポート校では8月7日『英国王のスピーチ』を教材として、映画で学ぶ世界史の授業・スクーリングを行いました。夏休み前日の授業とあって、学院教室は久しぶりに終日生徒たちで賑わいました。
今年度は学年初めから新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言、在宅学習、外出自粛と異例づくめのスタートとなり、新学期、新年度は新入生や転入生たちとの距離を少しでも近くしていくことをミッションとしてきた私たちにとって『教師生活三十五年、こんなに悲しいことはない』と懐かしの某先生ではありませんが、溜息仕切りの前期授業でした。
双方向型のオンライン授業やインターネット学習の準備も進め、従来活用してきたLINEやスマートフォンと合わせて、積極的な運用をはかっていますが、コミュニケーションは表情だけでなく、相手や空間が放つ空気感も大きく関連していますから、新学期とてお互いにほとんど面識がない新入生や転入生とのオンライン授業にはかなりの困難が伴いました。
学院の対面授業では先生方は五感をフルに活用して、言葉やリアクションの少ない生徒たちを理解しようとつとめますが、マスクをつけているだけで、これがなかなかどうして大変で、オンライン上ともなればなおさらのことです。コロナショックは期せずして日常の何気ないコミュニケーションがいかに大切なものであるかを改めて教えてくれたように思います。
映画で学ぶ世界史『英国王のスピーチ』
さて、今回の映画は2010年イギリス・オーストラリア・アメリカの合同制作、吃音(きつおん)に悩まされた、エリザベス女王の父、イギリス国王ジョージ6世と、その治療にあたったオーストラリア出身の言語療法士、ライオネル・ローグの友情を史実を基に描いた作品です。第83回アカデミー賞を作品賞など4部門で受賞したヒューマンドラマの名作です。
例年この時期には第二次世界大戦・太平洋戦争をテーマにした映画を鑑賞し、視聴後のレビューをもとにプレゼンテーションやディスカッションを行うのですが、残酷なシーンやショッキングなシーンはなしでとのリクエストがありますので、作品のチョイスはこれも例年の事ながら先生の腕の見せ所、シンドラーのリストは選べないのです。
奈良甘樫高等学院も創立5年目を迎え、生徒たちの顔ぶれも随分変わりましたが、毎年同じこのリクエストがくるのを少し不思議に思っていました。小学校の修学旅行で訪れた広島の『原爆資料館』で見た爆心地の光景が突然フラッシュバックして今でもトラウマに悩まされる!これは生徒たちの非常に高い感性や感受性のなせる業であると考える他ありません。
私のような凡人はこれぐらいのことは美味しいものを食べ、一晩ぐっすりと眠るとあらかた忘れてしまいます。時には必要なこともすっかり忘れて困ってしまうくらいです。しかし、感性が高く感受性の強い思春期の生徒たちには、生々しく強烈なインパクトで、あたかも自分自身が被爆の現場に遭遇したかのような鮮烈な映像記憶として心に残るようなのです。
究極のコミュニケーションとは何か?
名作になればなるほどこれらのシーンはより強く人の心に響くように描かれていますのでなおさらのことです。発達障害でいうカメラアイとは異なるであろう、この心の複雑な動きを理解するのは、私には難しすぎる課題ですが、芥川龍之介や川端康成のような偉大な才能の持ち主たちが、なぜあのように悩むのかを考えると何となく理解できるように思えます。
芸術、哲学、心理学、学院の高校生たちが選ぶ進路や学部学科専攻が人の心と深く関わるものであるのも当然といえるのかもしれません。才能やセンス、感性や感受性というものは金銀財宝のように望んでも得られない大変貴重で素晴らしいものですが、同時にガラス細工のように精妙巧緻にして繊細で非常に厄介なものでもあるようです。
広島への原子爆弾投下が8月6日、長崎への投下とソ連の対日参戦が8月9日、敗戦終戦が8月15日、そしてナチスドイツが国境を越えポーランドに侵攻して、第二次世界大戦が始まったのが9月1日ですので、事前学習で近現代の日本史や世界史を学んでもらうのもこの取り組みのポイントの一つです。僅か半世紀の間に二度の世界大戦、本当に愚かなことです。
医学や科学の常識も随分変わるもので、吃音の改善や健康のためにやたらと喫煙をすすめる医学博士や教授が登場するのは苦笑ものですが、身をやつして、怪しげな民間療法士であるローグのもとに通い、お互いに信頼関係を築いていく、国王ジョージ6世の姿は、やはり対面こそ究極のコミュニケーションであることを、示唆しているのでないでしょうか。
後書き・女王陛下も思わず微笑む名作映画
ちなみにこの映画が公開されてもイギリスのエリザベス女王は父王のネガティブな内容が予想されたため、ご覧になる気はなかったようですが、作品の評価が上がるにつれて無視できなくなり、後に周囲に促され渋々ながら鑑賞し『大変満足』されたとか、心温まるエピローグのある作品です。
次回の映画で学ぶ世界史はテーマをヨーロッパ・市民革命の時代『フランス革命とフランス近代文学』、上映作品は今回の英国王のスピーチと同じく、トム・フーパー監督の世界中でロングラン・ヒットを記録した、舞台ミュージカルの映画化作品『レ・ミゼラブル』で9月に実施の予定です。
リンク・映画で学ぶ世界史のシリーズ
次回の上映作品は文豪ヴィクトル・ユーゴー原作
【レ・ミゼラブル 2012 】
前回の作品はイタリア映画・喜劇とホロコースト
奈良県の新型コロナウイルス感染症『最新情報』