校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング

幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道

ミステリーツアー校外学習・亀の瀬インフラツーリズム『龍田古道をゆく』

突然ですが夏季校外学習のご案内です。真夏の校外学習?亀の瀬どこだそこ?地すべり対策事業?驚く生徒たちを横目に準備は着々と進み、8月2日に実施の運びとなった四年ぶりとなる前期校外学習です。新型コロナウイルス感染症の流行で校外学習は内容を充実させて年に一度の実施にしていましたが、今年からタイプの違う二種類の校外学習が復活しました。

昨年の校外学習『ユニバーサル・エクスプレスパスでゆく!クリスマスUSJ』は学院創立以来最高の参加人数で大いに盛り上がりましたが、人混みや混雑が苦手なので参加しづらいとの意見もあり、今回は教職員で密かに計画を立て、静かな学習系のミステリー校外学習としてみました。目的地は大阪府柏原市と奈良県三郷町の府県境にある亀の瀬渓谷です。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|大和川亀の瀬渓谷地すべり歴史資料室
大和川亀の瀬渓谷地すべり歴史資料室
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|メインイベントは亀瀬隧道プロジェクションマッピング
亀瀬隧道プロジェクションマッピング
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|満員御礼の奈良交通観光バス発車です
満員御礼の奈良交通観光バス発車です

ちはやぶる神代も聞かず龍田川・万葉集や古今集の歌人に愛された龍田古道の美学

龍田古道(龍田道)は古代から大和の飛鳥京や藤原京と河内摂津の難波津を結ぶ官道(幹線道路)として、飛鳥時代には厩戸王(聖徳太子)が建立した斑鳩宮や法隆寺、中宮寺、法起寺、風神を祀った龍田大社などが立ち並び、奈良時代には平城京と難波宮の行幸ルートとして利用され、元正天皇、聖武天皇、孝謙天皇の行幸もこの龍田古道を通っています。

厩戸王(聖徳太子)の吹く笛の妙なる調べに誘われて信貴山の神が舞い踊り、遣隋使小野妹子を伴った煬帝皇帝の使臣裴世清一行の旌旗が翻り、華麗な甲冑に身を固めた壬申の乱や大阪夏の陣の軍勢が進撃した、伝説と歴史に彩られた街道です。また、山上憶良、大伴家持、在原業平ら錚々たる万葉古今の歌人に愛された、風光明媚な和歌の街道でもあります。

しかし、龍田古道の亀の瀬渓谷は古来交通の難所としても知られており、すでに日本書紀には『狭く険しく人が並んで歩くこともできない道』と記述され、さらに厄介なことに、亀の瀬渓谷は繰り返し大洪水を引き起こす『地すべり』多発地帯としても有名です。このため、古代の人々はこの渓谷を畏坂や懼坂『かしこの坂』と呼び、長く恐れ敬ってきました。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|龍田道の起点・斑鳩町の世界遺産・国宝・飛鳥時代の法隆寺『金堂と五重塔』
龍田道の起点・世界遺産の法隆寺金堂
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|斑鳩の里・厩戸王(聖徳太子)ゆかりの国宝・法隆寺『南大門』
斑鳩の里・国宝『法隆寺南大門』
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|法隆寺の七不思議・南大門の鯛石『水難除け』
法隆寺の七不思議・南大門の鯛石

都市間道路は昼なお暗い酷道308号線・通称360(サブロク)カーブの阪奈道路

奈良と大阪を結ぶルートは他に北から暗越奈良街道や穴虫街道、竹内街道などがありますが、何れも生駒山、葛城山、金剛山の険しい峠道があり、輿を使う必要のあった行幸では利用できなかったと考えられます。現代でも暗峠を越える国道308号線はバイカーやマニアに人気の『酷道』阪奈道路には走り屋御用達の通称360(サブロク)カーブの名があります。

金剛生駒山地の平均標高は800m程度ですが、奈良盆地の平均標高50m~60mに対し、大阪平野の平均標高は1~3mしかありませんので、陸路は何れも急勾配となり、大和川は滝のように大阪側へ流れ落ちると言う訳です。時の為政者たちも決して無策ではなく、飛鳥の朝廷でも、平城京の太政官会議でも治水対策について熱心に議論された記録が残っています。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|風神を祀る・夏の龍田大社『大鳥居』
風神を祀る・夏の龍田大社『大鳥居』
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|三郷町の夏の風物詩・龍田大社の『風鈴まつり』
夏の風物詩・龍田大社『風鈴まつり』
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|厳暑に涼風・風鈴まつりの龍田大社拝殿
厳暑に涼風・風鈴まつり龍田大社拝殿

ヤマト王権は大和川のたまもの・古代飛鳥の大和王権と亀の瀬の深い関わり

大和川はその源を桜井市の笠置山地に発し、大和郡山市で佐保川を合わせ、川西町と河合町の境で飛鳥川と曽我川、斑鳩町で竜田川を合わせて、亀の瀬で奈良盆地を通過し、さらに大阪平野に入ると、大阪府の柏原市で石川を合わせ、大阪湾に注ぐ幹川流路延長68km、流域面積1,070k㎡の一級河川です。奈良盆地のすべての水が大和川に注ぐ特徴的な水系です。

大阪側とかなりの標高差があり、陸路が急峻な奈良盆地の物流は大和川で結ばれた水運を中心に発展し、飛鳥の都や橿原市の今井町、天理市の海石榴市(つばいち)の繁栄は大和川水系の水運によってもたらされました。律令体制下の平城京に西日本各地から運ばれた租調庸や貢納品も物納であったため、その多くが大和川の水運に拠ったと考えられています。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|まもなく到着・王寺駅側(奈良県側)の左手が葛城修験の龍王社です
まもなく到着・王寺駅側左手が龍王社
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|こちらは柏原市側(大阪府側)大和川に亀岩が見えます
大阪柏原側の大和川に亀岩が見えます
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|歴史資料室旧館の建物が見えてきました
旧資料室の建物が見えてきました

国土交通省近畿地方整備局・大和川河川事務所『亀の瀬地すべり歴史資料室』

ここで学院一行を乗せた奈良交通の貸し切りバスは大和川を右手に国道25号線を亀の瀬渓谷に入りました。JR高田駅前を出発して約40分、ほぼ予定通りの行程です。JR・近鉄王寺駅から僅か10分強で深山幽谷の雰囲気に車中は盛り上がりますが、資料室の建物が見えてくると軽い失望の声が聞こえてきます。でも心配無用、目指す目的地は峠の上の新資料室です。

国土交通省近畿地方整備局・大和川河川事務所が所管する、亀の瀬地すべり歴史資料室は今年4月にリニューアルオープンしたばかり、世界最先端の土木工学技術を駆使し、50年の歳月と850億円の巨費を投じて、国家プロジェクトとして行われた地すべり対策事業を一般公開している施設です。近年注目されている社会資本について学ぶインフラツアーの一つです。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|意気軒昂・自由闊達な車中の生徒たち
意気軒昂・自由闊達な車中の生徒たち
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|リニューアルオープン・新資料室前の集合写真
リニューアル・新資料室前の集合写真
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|明神山に『ヤッホー』流石に山彦は無理ですね
『ヤッホー』流石に山彦は無理ですね

洪水と治水の歴史・現代版『スサノオノミコトのヤマタノオロチ対策事業』

資料室長さんのスピーチに続いて、例によって揃わない集合写真を一枚、まずは第一学習室で対策事業のレクチャーです。皆なかなか熱心に聞いています。地すべりとは、斜面の一部あるいは全体が、滑りやすい地層などを滑り面にして、ゆっくりと滑り落ちる現象のことを言います。なだらかな斜面で起きやすく、非常に広い範囲に大きな被害をもたらします。

大和川流域は、奈良県と大阪府の両府県にまたがり、28市町村からなり、大阪市、堺市、柏原市、奈良市、橿原市など人口の多い主要都市や自治体も多数含まれています。大都市近郊の巨大ダムが決壊するとどうなるか?この悪夢のようなシナリオが現実に繰り返し起こったのが亀の瀬の歴史です。当然ですが、上流は冠水し、下流は大洪水に見舞われました。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|第一学習室で地すべり対策事業のレクチャー開始
第一学習室で対策事業のレクチャー
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|龍田古道を一号排水トンネルへ向かいます
龍田古道を排水トンネルへ向かいます
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|第一号排水トンネルの入り口は亀の瀬のマスコットキャラクター
トンネル入口に亀の瀬のマスコット

インフラ整備はメンテナンスが重要・河川事務所は大和川治水砂防の最前線基地

古事記、日本書紀の英雄譚と言えば、スサノオノミコトのヤマタノオロチ退治ですが、神通力を奪われたスサノオが知略で八頭八尾の巨大なヤマタノオロチを倒したように、その末裔たちもテクノロジーの剣を振るい、ドラゴンクエストを推し進めます。10tトラック14万台分の土を取り除き、排水トンネルと集水井、集水ボーリングで地下水を排出しました。

さらに、抵抗力を利用して運動を止める抑止工(深礎工、鋼管杭工)は岩盤まで貫く、最長100m、直径6.5mの鋼とコンクリートの巨大な杭が170基560本打ち込まれ、この一大プロジェクト完了後、大規模な地すべりはもはや起きなくなりました。スサノオノミコトはクシナダヒメと結ばれハッピーエンドとなりましたが、地すべり対策事業は現在も進行形です。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|排水トンネル内部は肌寒い位の涼しさです
トンネル内は肌寒い位の涼しさです
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|トンネルの奥へ進みますが影が不気味に映ります
奥へ進みますが影が不気味に映ります
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|どこか異次元に通じていそうな別れ道
どこか異次元に通じていそうな別れ道

ローマは一日にして成らず・進路や仕事としての公務員『災害大国日本の国家公務員』

大和川の流域には水位計やセンサーが数百台設置され、現在も監視とメンテナンス業務が絶え間なく続けられています。我が国は豊かな自然と収穫に恵まれた国土ですが、その反面、新期造山帯に属し、地震や津波、火山噴火など、自然災害の発生は安定陸塊にある地域とは桁違いの数で、地下に封じ込めた亀の瀬のオロチは逆襲の機会を常に伺っています。

古代ローマ人は水道橋で名高い上水道だけでなく『クロアカ・マクシマ』と呼ばれる巨大な下水道を建設し、専任の管理官を置いて、改修や補修を怠りませんでした。古代ローマ帝国の長期にわたる隆盛は、土木建築技術とそれを維持管理運用するシステムがすぐれていたとするのが定説です。現代の我が国でこれらを担っているのは公務員です。今回の校外学習に参加した生徒たちがこれを機に、公務員の職種や職掌に興味関心を持ってくれると終わりよければすべてよしと思います。

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|幻想的で神秘的な雰囲気の排水トンネル深部
幻想的で神秘的雰囲気のトンネル深部
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|巨大な集水井から地下水が落ちてきます
巨大集水井から地下水が落ちてきます
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|終点に到着トンネルは更に奥へ続きます
終点到着トンネルは更に奥へ続きます

校外学習のメインイベントは真夏の夜の夢!日本遺産『プロジェクションマッピング』

亀瀬隧道(トンネル)は、奈良と大阪を結ぶ初めての鉄道路線として、当時の国鉄東海道線と熾烈な顧客獲得競争を繰り広げていた、関西私鉄の大阪鉄道が明治25年(1892年)に敷設した鉄道トンネルです。現在のJR大和路線の河内堅上駅と三郷駅間の大和川北岸にあり、イギリス積みのアーチ式煉瓦構造で、昭和6年から翌7年(1931~32年)に発生した大規模な地すべりにより、すべて圧壊したと思われていましたが、奇跡的に圧壊を免れていた区間が、平成20年(2008年)地すべり対策工事中に偶然発見され、現在は文化庁認定『日本遺産』として一般公開されています。それでは本日のハイライト、プロジェクションマッピングを楽しみましょう。スマートフォンの電波も届かない、地下深く埋もれた明治のトンネルを幻の列車が疾走し、煌びやかな装束をまとった古の大宮人を随える、天皇の御輿が粛々と通りゆきます。

八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を『古事記・建速須佐之男命』

校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|蒸気機関車の煤煙の跡が残るトンネル
蒸気機関車の煤煙の跡が残るトンネル
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|文明開化・精巧緻密な明治のイギリス積みレンガ
文明開化・明治のイギリス積みレンガ
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』幻の旧大阪鉄道亀瀬隧道と龍田古道|プロジェクションマッピング開始
プロジェクションマッピング開始
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|ルイスキャロル・不思議の国のアリス
ルイスキャロル・不思議の国のアリス
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は電車
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は電車
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|やはり SL は松本零士『銀河鉄道 999』
やはり SL は松本零士『銀河鉄道 999』
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|聖武天皇の行幸行列が粛々と進みます
聖武天皇の行幸行列が粛々と進みます
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|男性貴族の装束が少し平安朝かな
男性貴族の装束が少し平安朝かな
校外学習『亀の瀬地すべり歴史資料室』プロジェクションマッピング|夏バージョンの締めくくりは夏の夜空に蛍の乱舞
夏バージョンの締めくくりは蛍の乱舞

学校行事リンク集

亀の瀬地すべり歴史資料室のホームページ

もうすべらせない!!オフィシャル

国土交通省近畿地方整備局のホームページ

大和川河川事務所オフィシャル

文化庁『日本遺産』葛城修験の明神山と亀の瀬

葛城修験の明神山と亀の瀬

風を司る龍が宿る奈良県三郷町ホームページ

風神・龍田大社の三郷町

大和川治水太平記の大阪柏原市ホームページ

大和川治水太平記の柏原市

『学院の特長』ページにも写真があります

奈良甘樫高等学院の特長

亀の瀬の記事は過去ブログもご覧ください

目に青葉山ほととぎす初鰹・編集後記

進路指導キャリアデザインゼミのブログ記事

キャリアデザインゼミ・現在進行中!

他の写真は『学校行事・活動』フォトギャラリー

学校行事・学習活動フォトギャラリー